退職金の税金 計算方法 完全ガイド 2026|退職所得控除 早見表と10年ルール対策

この記事の要点

  • 退職金の税金は他の所得と分離して計算する「分離課税」。手取りは 「退職所得の受給に関する申告書」の提出有無で大きく変わります。
  • 退職所得控除=勤続20年以下は 40万円×年数、20年超は 800万円+70万円×(年数−20)。1年未満は切り上げ。
  • 2026年1月から、iDeCo・企業型DCを一時金で受け取った後に勤務先の退職金を受け取る場合の調整期間が 5年から10年に延長されます。
  • 退職所得申告書を出さないと一律 20.42%源泉徴収。出し忘れた場合は確定申告で取り戻せます。

退職金の税金は「分離課税」── 他の所得と切り離して計算する

退職金は給与や事業所得と合算せず、退職金だけで税額を計算する「分離課税」です。長年の勤労に報いる性格のため、退職所得控除と「2分の1課税」という大きな優遇があります。所得税と住民税はどちらも勤務先が源泉徴収・特別徴収で天引きするため、原則として確定申告は不要です。

計算式の骨格はとてもシンプルです。退職所得=(収入金額−退職所得控除額)×1/2。この退職所得に所得税率と住民税率(10%)をかけて税額が決まります。退職金が控除額の範囲内なら、税金はゼロになります。

退職所得控除の計算式と早見表(勤続年数別)

勤続年数によって控除額の計算式が変わります。勤続年数に1年未満の端数がある場合は、必ず1年に切り上げて計算してください。たとえば22年3か月勤務なら23年として扱います。

勤続年数計算式退職所得控除額
5年40万円×5年200万円
10年40万円×10年400万円
15年40万円×15年600万円
20年40万円×20年800万円
25年800万円+70万円×51,150万円
30年800万円+70万円×101,500万円
35年800万円+70万円×151,850万円
40年800万円+70万円×202,200万円

勤続2年以下は計算上80万円未満になる場合がありますが、その場合は 最低80万円が控除されます。障害が原因で退職した場合は、上記控除額に100万円が加算されます。

退職所得の金額と税額の計算手順(具体例3パターン)

計算の流れを実数で確認しましょう。以下はいずれも勤続20年超で「2分の1課税」が適用されるケースです(勤続5年以下の役員等は2分の1課税が使えません)。

ケース1:勤続20年・退職金1,000万円

退職所得控除=40万円×20年=800万円。退職所得=(1,000万円−800万円)×1/2=100万円。所得税は100万円×5%=5万円、復興特別所得税2.1%を加えて約51,050円。住民税は100万円×10%=10万円。合計で約15万円が天引きされます。

ケース2:勤続30年・退職金2,000万円

退職所得控除=800万円+70万円×10年=1,500万円。退職所得=(2,000万円−1,500万円)×1/2=250万円。所得税は195万円超〜330万円以下の10%税率で、控除97,500円を引いて約152,500円(復興税込み約155,700円)。住民税は25万円。合計で約40万円台です。

ケース3:勤続35年・退職金2,500万円

控除=800万円+70万円×15年=1,850万円。退職所得=(2,500万円−1,850万円)×1/2=325万円。所得税は約227,500円(復興税込み約232,300円)、住民税は32.5万円。合計で約56万円ほど。退職金2,500万円に対して税負担率は2.3%程度に収まります。

「退職所得の受給に関する申告書」を必ず提出する

退職金を受け取る前に、勤務先から 「退職所得の受給に関する申告書」を渡されます。これに勤続年数や前回の退職金受給歴などを記入して提出することで、上記の優遇計算が適用されます。

申告書の提出源泉徴収方法確定申告
提出した退職所得控除を適用して計算(軽い負担)原則不要
提出しなかった退職金全額に一律 20.42%を源泉徴収取り戻すには自分で申告が必要

たとえば勤続30年で退職金2,000万円のケースで申告書未提出だと、本来の税額は約40万円台にもかかわらず、20.42%=約408万円が天引きされます。差額の約360万円は確定申告で還付を受けられますが、申告しないと戻ってきません。

2026年改正:5年ルール→10年ルール(iDeCo・企業型DCの落とし穴)

2026年1月1日以降、退職金とiDeCoや企業型DC(確定拠出年金)の一時金を別々に受け取るときの調整期間が 5年から10年に延長されます。これにより、退職所得控除を「2回満額」使う作戦が難しくなりました。

項目2025年12月31日まで2026年1月1日以降
iDeCo(前)→退職金(後)の間隔5年以上空ければ控除満額10年以上空ける必要
退職金(前)→iDeCo(後)の間隔20年以上で控除満額(変更なし)20年以上で控除満額
10年以内に両方受給した場合調整なし(5年以上空けば)後で受け取る側の控除が減額

たとえば60歳でiDeCoを一時金で受け取り、65歳で会社から退職金を受け取る計画は、改正後は不利になります。控除減額により 数十万〜数百万円の税負担増となるケースもあります。対策は次のいずれかです。

  • iDeCoの受取を遅らせる:iDeCoは最長75歳まで据え置きできます。退職金を60歳で受け取るなら、iDeCoは70歳以降に受け取れば調整対象外(20年ルールに該当)。
  • iDeCoを年金形式で受け取る:雑所得になりますが、退職所得控除の枠を消費しません。公的年金等控除と組み合わせて節税。
  • 分割受取(一部一時金+一部年金):iDeCo・企業型DCで選択可能。両方の控除を活かせます。

退職金の受け取り方比較:一時金・年金・併用

受け取り方税制上の扱い社会保険料向いている人
一時金退職所得(分離課税、2分の1課税)かからない退職所得控除の枠内に収まる人、住宅ローン一括返済を考える人
年金雑所得(公的年金等控除あり、総合課税)国保や介護保険料に反映長生きリスクに備えたい人、運用しながら受け取りたい人
併用退職所得+雑所得年金部分のみ反映控除枠を超える退職金がある人、現役後の収入を分散したい人

一般的には 一時金が税・社会保険料の負担とも軽いため有利です。ただし退職金が控除額を大きく上回る場合は、超過分を年金形式にすることで全体の手取りが増えるケースもあります。会社の制度で選べる比率は決まっているので、退職前に総務・人事に確認しましょう。

確定申告が必要なケース・不要なケース

退職所得申告書を出していれば、退職金そのものについて確定申告は不要です。しかし、次のいずれかに該当する場合は申告が必要・有利になります。

  • 申告書を出し忘れた:20.42%源泉徴収された税金の還付。5年以内なら還付申告可能。
  • 年の途中で退職して再就職していない:給与所得の年末調整が未了。源泉徴収票を持って申告すると還付になることが多い。
  • 医療費控除・寄附金控除・住宅ローン控除1年目などを使う:他の所得と一緒に退職所得も申告書に記載。
  • 赤字の事業所得・不動産所得などがある:他所得との損益通算で還付の可能性。

還付申告は退職した年の 翌年1月1日から5年間提出できます。退職した翌年の確定申告期間(2月16日〜3月15日)まで待つ必要はありません。

還付が受けられる可能性のあるパターン

以下に1つでも当てはまる人は、確定申告で税金が戻る可能性が高いです。源泉徴収票と退職所得の源泉徴収票・特別徴収票を準備して試算してみましょう。

  • 年の途中で退職し、その年の給与収入が控除額より少ない(基礎控除48万円+給与所得控除55万円=最低103万円)
  • 退職金から20.42%が天引きされている(申告書未提出)
  • その年に高額な医療費(10万円超または所得の5%超)を支払った
  • iDeCoや小規模企業共済の掛金を払っていた
  • 退職後に国民年金・国民健康保険を自分で納付した(社会保険料控除)
  • ふるさと納税をワンストップ特例ではなく確定申告で行う予定

退職金の税金でよくある間違いTOP5

順位間違いの内容正しい対応
1退職所得申告書を出さない退職前に必ず提出。退職金が振り込まれる前であれば後日でも対応可能な会社が多い。
2勤続年数の端数を切り捨てる1年未満は 切り上げ。22年1か月=23年で計算。
3iDeCoと退職金を5年あければOKと考える2026年1月以降は 10年に延長。受取時期を再設計。
4退職金を翌年のふるさと納税限度額に含める退職所得は 限度額計算に含めない(住民税の特例計算対象外)。
5退職金で確定申告できないと思い込む医療費控除等がある人、源泉徴収が多すぎた人は 5年以内に還付申告できる。

退職前後のチェックリスト

  • □ 退職日の確定と就業規則の退職金規程を確認
  • □ 「退職所得の受給に関する申告書」を受け取り、過去の退職金受給歴を記入
  • □ 勤続年数を1年単位で切り上げて控除額を試算
  • □ 一時金・年金・併用の受取比率を制度の範囲内で決定
  • □ iDeCo・企業型DCの受給予定を確認し、10年ルールに抵触しないか検討
  • □ 退職金の源泉徴収票・特別徴収票を保管(確定申告で必要)
  • □ 退職後の健康保険・年金の切替手続き(14日〜20日以内)
  • □ 翌年2月16日〜3月15日に必要なら確定申告(還付は5年以内)

FAQ:よくある質問

Q1:退職金が退職所得控除額より少ない場合、税金はかかりますか?

かかりません。退職所得控除額の範囲内であれば退職所得はゼロとなり、所得税・住民税ともに発生しません。たとえば勤続15年で退職金が500万円なら、控除600万円の範囲内なので税金はゼロです。ただし「退職所得の受給に関する申告書」の提出は必要です。

Q1の補足:退職所得申告書を出すタイミングは?

退職金の支払いを受ける日の前日までに勤務先に提出します。実務上は退職手続きの書類一式と同時に渡されることが多いので、その場で記入して返却すれば問題ありません。提出しないと20.42%の源泉徴収となるため、必ず提出してください。

Q2:勤続年数が5年以下だと税金が重くなると聞きましたが?

勤続5年以下の役員等が受け取る退職金(特定役員退職手当)は2分の1課税が適用されません。また、2022年以降は役員以外でも勤続5年以下の場合、退職金から退職所得控除額を引いた残額のうち 300万円を超える部分は2分の1課税が適用されない仕組みになっています。短期勤続の場合は注意が必要です。

Q3:iDeCoを年金形式で受け取れば10年ルールの影響はありませんか?

年金形式で受け取る分は雑所得となり、退職所得控除を消費しません。そのため10年ルールの影響を回避できます。ただし雑所得は他の所得と合算する総合課税なので、税率は所得全体で決まります。公的年金等控除と組み合わせて手取りを試算し、一時金との比較で有利な方法を選びましょう。

Q4:退職金から天引きされた住民税は確定申告でどう扱われますか?

退職所得に対する住民税は退職時に 特別徴収(一括天引き)されており、翌年度の住民税には反映されません。確定申告書に退職所得を記載しても住民税は再計算されないため、二重課税の心配はありません。なお退職した翌年の住民税は、退職前年の給与所得に基づく金額が課税されるので、納付資金を別途準備しておきましょう。

退職金は人生で受け取る最も大きな一時所得のひとつです。控除を満額活用し、申告書を出し忘れず、2026年の10年ルール改正にも対応した受取設計を、退職の少なくとも1年前から計画しておきましょう。

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