「年金をもらいながら働くと、年金が減ってしまう」そんな話を聞いて、働く時間をセーブしている方は少なくありません。これが在職老齢年金という仕組みです。ところが2026年4月、この制度が大きく変わり、年金が減る人が一気に少なくなりました。基準額が月51万円から月65万円へと引き上げられたのです。
この記事では、在職老齢年金の仕組みと2026年改正のポイント、自分の年金がいくら止まるのかを計算する方法を、早見表つきでやさしく整理します。
この記事の要点まとめ
- 在職老齢年金は給与と厚生年金の合計が基準額を超えると、超過分の半分の年金が止まる仕組み
- 2026年4月から基準額が月51万円→月65万円に引き上げられ、減額される人が大幅に減少
- 止まるのは老齢厚生年金(報酬比例部分)だけ。老齢基礎年金と経過的加算は全額もらえる
- 年金が全額ストップすると加給年金(最大年約40万円)も止まる点に注意
- 毎年10月に働いた分が反映される在職定時改定で年金は少しずつ増えていく
在職老齢年金とは?|働きながら年金をもらうと減ることがある仕組み
在職老齢年金とは、厚生年金に加入して働きながら老齢厚生年金を受け取るとき、給与(賞与を含む)と年金の合計が一定額を超えると、年金の一部または全部が支給停止になる制度です。会社員や役員として厚生年金に入って働いている65歳以上の人が主な対象になります。
ポイントは「働いた分、稼ぎすぎると年金がカットされる」という点です。たとえば現役並みに高い給与をもらっている人は、せっかくの厚生年金が止まってしまうことがありました。これが「年金がもらえないなら、いっそ働く時間を減らそう」という就労抑制につながると問題視されてきました。
逆に言えば、給与と年金の合計が基準額以下なら、年金は1円も減りません。多くの一般的な会社員は、もともと在職老齢年金で減額されるほどの収入ではありません。
2026年4月改正のポイント|基準額が51万円から65万円へ
2026年(令和8年度)4月から、年金が止まり始める支給停止基準額が大きく引き上げられました。これが今回の改正の最大のポイントです。
| 項目 | 2025年度(令和7年度) | 2026年度(令和8年度) |
|---|---|---|
| 支給停止基準額 | 月51万円 | 月65万円 |
| 減額の対象 | 給与+厚生年金が基準額を超えた分の「2分の1」 | |
| 止まる年金 | 老齢厚生年金(報酬比例部分)のみ | |
| 影響 | 基準が低く減額者が多い | 減額される人が大幅に減少 |
法律が成立した2025年6月時点では「62万円」と報じられていましたが、その後の賃金・物価の改定を反映し、実際の施行時には65万円となりました。この14万円の引き上げにより、これまで年金が減らされていた多くの人が、全額または以前より多くの年金を受け取れるようになります。
支給停止額の計算式|「基本月額」と「総報酬月額相当額」
いくら止まるかは、次の計算式で決まります。
支給停止額(月額)=(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 65万円)× 1/2
- 基本月額=老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額。加給年金・経過的加算・老齢基礎年金は含めない
- 総報酬月額相当額=標準報酬月額 +(直近1年間の標準賞与額 ÷ 12)
かんたんに言うと、「毎月の年金」と「毎月の給与(ボーナスを月割りした分を含む)」を足して、65万円を超えた部分の半分だけ年金が止まる、ということです。65万円以下なら支給停止はゼロで全額もらえます。
たとえば基本月額10万円・総報酬月額相当額60万円の人なら、合計70万円。65万円を超える5万円の半分、つまり月2.5万円が止まり、年金月額は7.5万円になります。2025年度(基準51万円)なら月9.5万円も止まっていたので、改正で月7万円も手取りが改善した計算です。
いくら止まる?年金月額・給与別の早見表
基準額65万円で、年金と給与の組み合わせごとに「止まる年金額(月額)」をまとめました。基本月額(厚生年金)と総報酬月額相当額(給与)の合計でみてください。
| 厚生年金(基本月額) | 給与(総報酬月額相当額) | 合計 | 止まる年金(月額) |
|---|---|---|---|
| 10万円 | 40万円 | 50万円 | 0円(全額支給) |
| 10万円 | 55万円 | 65万円 | 0円(全額支給) |
| 10万円 | 60万円 | 70万円 | 2.5万円 |
| 15万円 | 60万円 | 75万円 | 5万円 |
| 15万円 | 80万円 | 95万円 | 15万円(年金は全額停止) |
| 20万円 | 50万円 | 70万円 | 2.5万円 |
表のとおり、合計65万円までは年金は1円も減りません。多くの人にとって「給与と年金を合わせて月65万円」はかなり高い水準なので、改正後はほとんどの人が満額もらえるようになります。
老齢基礎年金と経過的加算は減らない|対象は厚生年金だけ
誤解しやすいのですが、在職老齢年金で止まるのは老齢厚生年金の報酬比例部分だけです。次のものは、いくら稼いでいても全額受け取れます。
- 老齢基礎年金(国民年金部分・2026年度満額 月70,608円)
- 経過的加算額
つまり、仮に老齢厚生年金が全額ストップしても、土台となる老齢基礎年金はまるごと残ります。「働くと年金がゼロになる」というのは正確ではありません。
加給年金への影響|全額停止だと年約40万円も止まる
注意:老齢厚生年金が全額支給停止になると、配偶者などの加給年金(年最大約40万円)も一緒に止まります。逆に、年金が1円でも支給されていれば加給年金は全額もらえます。
加給年金は「年金の家族手当」とも呼ばれ、年下の配偶者がいる人などに上乗せされる重要な給付です。基準額ギリギリで働く場合、年金を全額止めてしまうと加給年金まで失うため、給与の設計には注意が必要です。
65歳以上と60歳代前半(特別支給)の違い
生年月日によっては、60歳から64歳の間に「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れる人がいます。在職老齢年金の基準額は、2022年4月から60歳代前半も65歳以上も統一されています。
| 項目 | 60歳代前半(特別支給) | 65歳以上 |
|---|---|---|
| 基準額(2026年度) | 月65万円 | 月65万円 |
| 対象者 | 生年月日により受給できる人のみ | 厚生年金で働く受給者全般 |
| 繰下げ | できない | できる(条件あり) |
| 在職定時改定 | 対象外 | 対象(毎年10月) |
なお、特別支給の老齢厚生年金は繰り下げて増額することはできません。受け取れる人は、忘れずに請求しましょう。
70歳を過ぎても在職支給停止は続く
70歳以降は厚生年金の被保険者ではなくなる(保険料を払わない)ため誤解されがちですが、70歳以上で厚生年金の適用事業所に勤め続ける場合も、在職による支給停止は適用されます。給与水準が高い人は、70歳を過ぎても年金が一部止まることがあるので覚えておきましょう。
毎年10月に年金が増える「在職定時改定」
65歳以上70歳未満で働きながら厚生年金に加入していると、在職定時改定という仕組みで年金が毎年増えていきます。具体的には、毎年9月1日を基準日として前年分の加入実績を反映し、10月分(12月支給)から年金額が改定されます。
以前は退職するまで年金額が増えませんでしたが、この制度により「働いた分が翌年すぐ年金に反映される」ようになりました。長く働くほど将来の年金が育っていくイメージです。
繰下げ受給を考えている人の注意点|止まった分は増えない
年金を遅らせてもらう「繰下げ受給」は最大84%増やせる魅力的な選択肢ですが、在職老齢年金で支給停止になっている部分は繰下げの増額対象になりません。つまり、給与が高くて年金が止まっている人は、繰り下げても「止まっていた分」は増えないという点に注意が必要です。基礎年金部分の繰下げは支給停止の影響を受けないため、厚生年金と基礎年金を分けて考えると有利になることがあります。
手取りを増やす3つの工夫
特に役員報酬が高い経営者・役員は、改正後も年金が止まるケースがあります。代表的な見直し方法を整理します。
| 工夫 | 内容 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 役員報酬の見直し | 毎月の報酬を下げ、合計を65万円以内に調整 | 高額報酬の役員・経営者 |
| 賞与・退職金の活用 | 月額を抑えつつ別の形で受け取る(要・専門家相談) | 同上 |
| 働き方の調整 | 標準報酬月額を意識して勤務時間・給与を設計 | パート・再雇用の人 |
ただし、報酬を下げすぎると将来の年金や社会保険のメリットが減ることもあります。判断に迷う場合は、年金事務所や社会保険労務士に相談するのが安全です。
よくある間違いTOP5
| 間違い | 正しい理解 |
|---|---|
| 働くと年金が全部なくなる | 止まるのは厚生年金の超過分の半分だけ。基礎年金は全額残る |
| 基準額は給与だけで判定 | 給与+厚生年金の合計で判定する |
| ボーナスは関係ない | 直近1年の賞与を月割りした額も合計に含まれる |
| 全額止めても加給年金はもらえる | 全額停止だと加給年金も止まる |
| 繰下げれば止まった分も増える | 支給停止部分は繰下げの増額対象外 |
自営業・フリーランスは対象になる?
在職老齢年金は「厚生年金に加入して働く人」の制度です。そのため、自営業・フリーランス・個人事業主のように国民年金だけの人は対象外で、どれだけ稼いでも年金が減ることはありません。減額の判定に使う「総報酬月額相当額」は厚生年金の標準報酬がベースだからです。
一方、2024年10月以降は短時間労働者への社会保険の適用が広がり、パートやアルバイトでも厚生年金に加入するケースが増えています。今後は勤め先で厚生年金に入っているかどうかが、在職老齢年金の対象になるかの分かれ目になります。自分の加入状況は給与明細の「厚生年金保険料」の欄で確認できます。
なお、会社を退職して厚生年金を抜ければ在職による支給停止はなくなり、それ以降は年金を満額受け取れます。「退職したら年金が増えた」というのはこの仕組みによるものです。
確認・手続きの方法
在職老齢年金の支給停止は、年金の請求時や就職時の届出をもとに日本年金機構が自動で計算します。自分で複雑な申請をする必要は基本的にありません。自分の見込み額を知りたいときは、次の方法が便利です。
- ねんきんネットでシミュレーション(マイナポータル連携で確認可)
- 年金事務所の窓口・電話で個別試算を依頼
- 給与が変わったときは、会社が提出する月額変更届などで年金額も見直される
2026年の改正で「働くと損」という心配はかなり小さくなりました。基準額65万円を目安に、無理なく働きながら年金を受け取る計画を立てましょう。年金まわりの基礎は、あわせて関連記事もご確認ください。