この記事の要点
- 分割できるのは「厚生年金(標準報酬)」だけ。国民年金(基礎年金)や預貯金・iDeCoは対象外です。
- 方法は2つ:当事者で割合を決める合意分割と、専業主婦(夫)が単独請求できる3号分割。按分割合の上限は2分の1。
- 【2026年4月改正】請求期限が2年→5年に延長。2026年4月1日以降の離婚は離婚翌日から5年以内。3月31日以前の離婚は従来どおり2年以内です。
- 増える金額:分割を受けた側は令和6年度で平均月約3.3万円増(分割前60,934円→分割後94,509円)。婚姻期間が長いほど増えます。
- 最初の一歩は「年金分割のための情報通知書」を年金事務所で取得すること(約2週間〜1か月で郵送)。
離婚を考えるとき、見落とされがちなのが「年金分割」です。婚姻期間中に支払った厚生年金を夫婦で分け合う制度で、特に専業主婦(夫)や収入差の大きい夫婦では、老後の受給額が大きく変わります。2026年4月の年金制度改正で請求期限が2年から5年へ延長されたことも重要なポイントです。この記事では、合意分割と3号分割の違い・いくら増えるか・手続きの流れ・必要書類・注意点を、早見表とチェックリストで整理して解説します。
年金分割とは?分割できるのは「厚生年金」だけ
年金分割は、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を夫婦で分ける制度です。会社員・公務員として働いた期間の上乗せ部分が対象で、専業主婦(夫)でも相手の厚生年金の一部を自分の記録にできます。
- 対象になるもの:婚姻期間中の厚生年金(旧共済年金を含む)の標準報酬。
- 対象にならないもの:国民年金(老齢基礎年金)、iDeCo・企業年金、預貯金や退職金。これらは年金分割ではなく財産分与の話になります。
- 誤解に注意:「相手の年金額の半分がもらえる」わけではありません。分けるのは婚姻期間中の記録で、上限は2分の1です。
合意分割と3号分割の違い
年金分割には2つの制度があります。自分がどちらに当てはまるかをまず確認しましょう。
| 項目 | 合意分割 | 3号分割 |
|---|---|---|
| 対象期間 | 婚姻期間の全体(2007年4月以前も含む) | 2008年4月以降の第3号被保険者期間のみ |
| 相手の合意 | 必要(または裁判手続き) | 不要(単独請求できる) |
| 按分割合 | 合意・調停・審判で決定(上限1/2) | 自動的に1/2 |
| 主な対象者 | 共働き・収入差のある夫婦 | 専業主婦(夫)など扶養に入っていた人 |
専業主婦(夫)期間が長い場合は、3号分割で2008年4月以降の部分を確実に分割しつつ、それ以前の期間は合意分割で対応する、という併用が一般的です。
【2026年改正】請求期限が2年→5年に延長
2026年4月1日施行の年金制度改正で、年金分割の請求期限が大きく変わりました。
- 2026年4月1日以降に離婚した場合:離婚した日の翌日から5年以内。
- 2026年3月31日以前に離婚した場合:従来どおり2年以内。
期限を過ぎると分割を請求できなくなります。延長されたとはいえ、相手の死亡や記録確認の手間を考えると、離婚後できるだけ早く手続きするのが安全です。
年金分割でいくら増える?平均と婚姻期間別の目安
分割を受けた側の年金は、厚生労働省の令和6年度統計で分割前の平均60,934円から分割後94,509円へ、平均で月約33,575円増えています。ただし増額幅は婚姻期間の長さと収入差で大きく変わります。
| ケース | 増額の目安(月額) | ポイント |
|---|---|---|
| 婚姻10年・収入差大 | 約9,000円前後 | 夫の10年分の厚生年金記録を分割した例 |
| 分割を受けた人の平均(令和6年度) | 約33,575円増 | 分割前60,934円→分割後94,509円 |
| 共働き・収入差が小さい | 増減わずか | 互いの記録を合算して半分にするため差が出にくい |
※あくまで目安です。正確な見込み額は「情報通知書」で確認できます。なお分割された記録は自分の年金として、原則自分が受給開始年齢に達したときから一生涯受け取れます。
手続きの流れ5ステップ
年金分割は、離婚前の準備から離婚後の請求まで段階を踏みます。
- 情報通知書を取得:年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を出すと、約2週間〜1か月で「年金分割のための情報通知書」が郵送されます。按分割合の範囲や対象期間がわかります。
- 割合を決める:合意分割なら夫婦で按分割合(上限1/2)を協議。3号分割なら自動的に1/2です。
- 合意を書面化:合意できたら公正証書か「年金分割の合意書」を作成(または調停・審判の書類)。
- 標準報酬改定請求書を提出:離婚後に年金事務所へ提出。原則として当事者2人または代理人で行います(3号分割は単独可)。
- 改定通知を確認:後日「標準報酬改定通知書」が届き、記録の改定が完了します。
必要書類一覧
| 書類 | 内容・入手先 |
|---|---|
| 標準報酬改定請求書 | 年金事務所・日本年金機構サイト(様式) |
| 戸籍謄本など | 婚姻期間と離婚の事実、夫婦双方の生存(請求日前1か月以内)を確認 |
| 年金手帳または基礎年金番号通知書 | 基礎年金番号を記入する場合。マイナンバー記入時はマイナンバーカード等 |
| 合意を証する書類 | 公正証書の謄本・抄録、または調停調書・審判書(合意分割の場合) |
割合が決まらないときは協議→調停→審判
合意分割で按分割合がまとまらない場合は、家庭裁判所の手続きに進みます。
- 協議:まず当事者で話し合い。多くは上限の1/2で合意します。
- 調停:まとまらなければ家庭裁判所に「年金分割の割合を定める調停」を申し立て。調停委員が間に入ります。
- 審判:調停不成立なら審判へ移行し、裁判所が割合を決定します。実務上は1/2とされるのが一般的です。
いずれの場合も、申立て前に情報通知書の取得が必要です。離婚協議と並行して早めに準備しましょう。
年金分割の注意点・デメリット
- 国民年金は対象外:自営業者同士など厚生年金の加入がない夫婦は、年金分割の効果がありません。
- 収入が多い側は減る:分割した側の老後の受給額は減少します。
- すぐにもらえるわけではない:分割後の年金は、自分が受給開始年齢に達してから受け取れます。離婚直後に振り込まれるわけではありません。
- 相手の協力が必要な場合がある:合意分割では原則2人での請求や合意書面が必要です。
- 受給には自分の受給資格期間(10年)も必要:分割を受けても、自身が老齢年金の受給資格を満たしていることが前提です。
熟年離婚・共働きで変わる年金分割のポイント
同じ年金分割でも、夫婦の働き方や婚姻期間によって効果は大きく変わります。自分のケースに当てはめて確認しましょう。
- 熟年離婚(婚姻期間が長い):分割対象となる婚姻期間が長いほど、移される厚生年金記録も多くなります。専業主婦(夫)期間が20〜30年に及ぶ場合、増額のインパクトは特に大きくなります。老後が目前のため、請求漏れがないよう早めの手続きが重要です。
- 共働き夫婦:双方が厚生年金に加入していた場合は、互いの記録を合算して分け合うため、収入差が小さいほど増減はわずかです。場合によっては収入の少なかった側が増え、多かった側が減ります。情報通知書で実際の差を確認してから割合を決めましょう。
- 別居期間:離婚が成立するまでは婚姻期間として扱われるのが原則です。長い別居期間がある場合、按分割合を巡って争いになることもあり、調停で個別事情が考慮されるケースもあります。
- 事実婚(内縁):第3号被保険者として認定されていた期間があれば、3号分割の対象になり得ます。住民票や健康保険の扶養記録が判断材料になります。
年金分割と一緒に確認したいお金
離婚時のお金の整理は年金分割だけではありません。次の項目もセットで確認しておくと、老後の生活設計がぶれません。
- 財産分与:預貯金・退職金・iDeCo・企業年金・住宅などは年金分割ではなく財産分与の対象です。年金分割と混同せず、別途協議します。
- 遺族年金との関係:分割で増えた自分の老齢年金記録は、その後の生活の基盤になります。再婚や相手の死亡があっても、すでに改定された記録は原則そのまま維持されます。
- 自分の受給額の底上げ:分割を受けても受給資格期間(原則10年)が足りない場合は、国民年金の任意加入などで補強できます。離婚後の働き方とあわせて検討しましょう。
よくある失敗・誤解TOP5
| 順位 | 失敗・誤解 | 正しい理解 |
|---|---|---|
| 1 | 請求期限を過ぎて時効になった | 2026年4月以降の離婚は5年・以前は2年。早めに請求 |
| 2 | 相手の年金の半分がもらえると思っていた | 分けるのは婚姻期間中の厚生年金記録、上限1/2 |
| 3 | 国民年金や退職金も分割できると誤解 | 厚生年金のみ。預貯金等は財産分与で別途 |
| 4 | 離婚後すぐ年金が増えると思った | 受け取りは自分の受給開始年齢から |
| 5 | 情報通知書を取らずに調停を申し立てた | 申立て前に情報通知書の取得が必要 |
年金分割の準備チェックリスト
- 自分・相手の厚生年金の加入期間を確認した
- 年金事務所で情報通知書を請求した(約2週間〜1か月)
- 合意分割か3号分割か(または併用か)を整理した
- 按分割合(上限1/2)について方針を決めた
- 合意内容を公正証書・合意書にした(合意分割)
- 離婚後、標準報酬改定請求書を年金事務所へ提出した
- 請求期限(5年または2年)をカレンダーに記入した
- 戸籍謄本など必要書類を揃えた
まとめ
離婚時の年金分割は、「対象は厚生年金だけ」「上限は2分の1」「2026年4月以降の離婚は請求期限5年」の3点が基本です。専業主婦(夫)期間がある人は3号分割で単独請求でき、それ以外は合意分割で割合を決めます。手続きは離婚前の情報通知書取得から始まり、離婚後の標準報酬改定請求で完了するという流れを押さえておけば迷いません。まずは年金事務所で情報通知書を取得し、平均で月3万円前後変わる老後の受給額をしっかり守りましょう。あわせて老齢厚生年金の平均額や繰下げ受給の損益分岐、老齢基礎年金の満額も確認し、離婚後の年金プランを総合的に組み立てておくと安心です。