この記事の要点
- 条件:健康保険(協会けんぽ・健保組合)の加入者が、業務外の病気・ケガで連続3日休んだ後、4日目以降も給与が出ない期間
- 金額:標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3(月収30万円なら日額約6,667円)
- 期間:通算1年6ヶ月(2022年1月から「暦日」ではなく「実際に休んだ日」を合計)
- 申請書:4枚1組(本人2枚・会社1枚・医師1枚)を協会けんぽ支部へ郵送
- 退職後も継続:退職日まで連続1年以上の加入があれば、最長1年6ヶ月の残り期間まで受給可能
先月、知人が突然のうつ病で2ヶ月会社を休むことになりました。給与は止まったのに家賃と健康保険料の請求は来る。そこで申請したのが傷病手当金です。書類が4枚あって医師と会社にも記入してもらう必要があり、最初は「何から手をつければ…」とパニックになっていました。
でも実際にやってみると、傷病手当金は条件さえそろえば日額の約2/3が最長1年6ヶ月もらえる、健康保険の中でも一番手厚い給付です。ここでは支給条件・計算式・申請書の書き方・退職後の継続条件・もらえないケースまで、実際の手順に沿って書きます。
傷病手当金の支給条件4つ|「健康保険の被保険者」が大前提
傷病手当金は会社員・公務員などの健康保険加入者だけが対象の制度です。自営業の国民健康保険には基本的にこの制度がありません。協会けんぽ・健保組合・共済組合の被保険者が、次の4つすべてに当てはまるときに支給されます。
支給条件チェックリスト
- 業務外の病気・ケガで療養していること(労災対象の業務上ケガは対象外)
- 仕事に就くことができない状態(主治医が「労務不能」と診断)
- 連続する3日間の待期期間を満たしている
- 給与の支払いがない、または傷病手当金より少ない(出ていれば差額のみ支給)
注意したいのが2つめの「労務不能」です。これは医学的に通常の業務ができない状態を指します。デスクワーク中心の人が骨折で歩けないというケースで、座って働けるなら不支給になることもあります。診断書ではなく申請書の「療養担当者記入欄」に医師が判断を書く仕組みです。
業務中・通勤途中のケガは労災です。労災と傷病手当金は同時には受け取れません。会社のミスで労災申請が遅れている場合は、まず労働基準監督署に相談してください。
待期3日と4日目からの考え方|公休・有給・早退の扱い
傷病手当金で一番つまずきやすいのが、この「待期3日」のルールです。療養のために仕事を休んだ日が連続して3日間そろって初めて成立し、4日目以降の休業から支給が始まります。連続して2日休んだ後で3日目に出勤したら、待期はリセットされます。
待期3日にカウントされる日は次のとおりです。意外と知られていませんが、土日や有給休暇も含まれます。
| 休んだ日の種類 | 待期にカウントされる? |
|---|---|
| 平日に丸1日休んだ | カウントされる |
| 土日・祝日などの公休日 | カウントされる |
| 年次有給休暇を使った日 | カウントされる |
| 早退(午後から休んだ) | 1日としてカウントされる |
| 遅刻して出社・午前のみ勤務 | カウントされない場合あり |
たとえば金曜に体調を崩して早退、土日も療養、月曜に出社できなければ「金・土・日」で待期3日が成立し、月曜から支給対象になります。一方で、土日休んで月曜だけ療養した場合、土日は会社が元から休みのため待期に入れますが、月曜以降の連続休業が続くかどうかが要件になります。
有給休暇を待期3日にあてた場合、有給日は給与が出ているので傷病手当金の支給対象外ですが、4日目以降の無給休業が支給開始日になります。給与が出ている日は手当が止まる、と覚えておくとシンプルです。
金額の計算式と月収別の早見表|「給与の2/3」の正確な意味
傷病手当金の1日あたりの金額は、次の計算式で決まります。よく「給与の2/3」と言われますが、実際には残業代やボーナスを除いた標準報酬月額がベースです。
計算式
支給開始日以前の継続した12ヶ月間の標準報酬月額を平均 ÷ 30日 × 2/3 = 1日あたりの支給額
勤続1年未満の場合は、加入してからの平均、または前年9月30日時点の協会けんぽ全被保険者の平均額(2026年は約31万円前後)のうち、低い方が使われます。
標準報酬月額別の早見表(協会けんぽ基準、1円未満切り捨て)です。実際の通知書ではここから10円未満を四捨五入した数字が示されます。
| 標準報酬月額(目安の月収) | 日額(2/3) | 月額(30日) |
|---|---|---|
| 20万円(月収19〜21万) | 約4,444円 | 約133,333円 |
| 24万円(月収23〜25万) | 約5,333円 | 約160,000円 |
| 28万円(月収27〜29万) | 約6,222円 | 約186,667円 |
| 30万円(月収29〜31万) | 約6,667円 | 約200,000円 |
| 36万円(月収35〜37万) | 約8,000円 | 約240,000円 |
| 44万円(月収43〜45万) | 約9,778円 | 約293,333円 |
注意したいのは「2/3」が額面ベースという点です。傷病手当金そのものは非課税ですが、休職中も社会保険料(健康保険・厚生年金)は払い続ける必要があり、会社が立て替えて後日請求するケースが大半です。実際の手取り感覚は給与の約50〜60%と思っておくと、家計の予測が立てやすくなります。
会社から見舞金などの形で給与の一部が出ている場合、その金額分が手当から差し引かれます。給与日額が傷病手当金日額を上回るときは、その月は不支給です。
支給期間1年6ヶ月の数え方|2022年改正で「通算」に変更
傷病手当金は同じ病気・ケガに対して通算1年6ヶ月もらえます。ここが2022年1月の法改正で大きく変わったポイントです。
| 項目 | 2021年12月まで(旧制度) | 2022年1月以降(現行) |
|---|---|---|
| カウント方法 | 支給開始日から暦日で1年6ヶ月 | 実際に休んだ日を合計して1年6ヶ月分 |
| 途中で復職した日 | その日数も期間に含まれて消化 | 復職期間は消化されず、再休業時に残日数を使える |
| がん・難病など長期療養 | 復職を挟むと損 | 復職リハビリ後の再休業に対応しやすい |
たとえば6ヶ月休んで3ヶ月復職し、その後また休業した場合、旧制度なら復職の3ヶ月も「暦上の1年6ヶ月」に組み込まれていました。新制度では実際に休んだ6ヶ月だけが消化されているので、再休業時に残り1年分もらえます。
この改正のおかげで、無理に出社して悪化させるリスクが減りました。主治医と相談しながら段階的に復職する計画が立てやすくなっています。ただし、別の病気で再度休む場合は新しい1年6ヶ月のカウントが始まる扱いです。
申請書4枚の書き方|被保険者・事業主・医師の3者がそろう
協会けんぽの「健康保険傷病手当金支給申請書」は4枚1組です。3者がそれぞれ別の欄に記入する仕組みなので、書き始める前に全員のスケジュールを調整しておくと、提出が早くなります。
申請書4枚の内訳
- 1〜2枚目 被保険者記入用:氏名・口座・休業期間・傷病名など本人が記入
- 3枚目 事業主証明用:休業期間の出勤状況・給与支払いの有無を会社の総務が記入
- 4枚目 療養担当者記入用:症状・初診日・労務不能と判断した期間を主治医が記入
用紙は協会けんぽの公式サイト(全国健康保険協会の申請書ダウンロードページ)からPDFで取得できます。健保組合に加入している人は、組合のサイトに専用フォーマットがあるのでそちらを使ってください。
記入の順番にもコツがあります。まず本人欄を埋めて、医師に書いてもらう4枚目を病院に持参するのが最速です。医師の証明には1通あたり300〜500円程度の文書料がかかります。事業主証明は最後に総務に依頼すると、休業期間が確定してから書けるので二度手間になりません。
申請は休業1ヶ月ごとが現実的です。1年分まとめて申請することも制度上は可能ですが、生活費の都合でなるべく早く受け取りたい場合、1ヶ月ごとに分けるのが現実的です。協会けんぽは受付から10営業日以内に振込が原則です。
提出先は会社の住所を管轄する協会けんぽ支部で、郵送が一般的です。初回はマイナンバーカードの写しか通知カード+本人確認書類のコピーも同封します。同時に高額療養費の申請方法もあわせて行うと、入院費の自己負担を一気に軽くできます。
退職後ももらえる条件|継続1年以上の加入が必須
休職中に「もう会社を辞めようか」と考える人も多いですが、退職後も傷病手当金を受け続けるには「資格喪失後の継続給付」という別ルートを満たす必要があります。条件は4つすべてです。
退職後も傷病手当金をもらう4条件
- 退職日までに、継続して1年以上の健康保険加入歴があること(国保・任意継続・共済期間は除く)
- 退職日に傷病手当金を実際に受給しているか、受給要件を満たしている状態
- 退職後も同じ病気・ケガで「労務不能」と医師が診断していること
- 退職日に出勤せず仕事を休んでいること(挨拶のための出社も不利になる場合あり)
とくに重要なのが1つめの「連続1年以上の被保険者期間」です。転職して間もない人は、前職の協会けんぽ等との間に1日でも空白があると、合算できずに継続給付の対象外になります。退職直前の有給消化中に1日でも欠勤扱いがあると条件を外れるケースもあるので、退職日の取り扱いは総務と必ず確認してください。
退職後に一度でも「働ける状態」になったら継続NG。資格喪失後はいったん仕事に就ける状態になり、その後また働けなくなっても、継続給付を再開することはできません。復職と再休業を繰り返す可能性がある場合は、退職前に主治医と相談しましょう。
もうひとつ気をつけたいのが任意継続との関係です。任意継続中に発症した病気は対象外で、傷病手当金が出るのは「退職前から続いている病気・ケガ」だけです。退職後の保険選択で迷っている人は、まず継続給付の条件を満たすかチェックしてから、任意継続か国保かを決めてください。
もらえないケース7つ|国保加入者は対象外
申請しても不支給になる代表的なパターンを7つにまとめます。書類を準備する前にここで自分が当てはまっていないか確認してください。
| 不支給になる主なケース | 理由 |
|---|---|
| 自営業・フリーランス(国民健康保険) | 国保には傷病手当金の制度自体がない |
| 業務上のケガ・通勤災害 | 労災保険の休業補償給付が対象 |
| 連続3日の待期が成立していない | 飛び石休業では支給が始まらない |
| 休業中も給与全額が支払われた | 所得補償が必要ない状態と判断 |
| 主治医が「労務不能」と書けない症状 | 軽症・自己判断の休業は対象外 |
| 老齢厚生年金を受給中 | 原則として年金が優先(差額調整あり) |
| 任意継続中に新たに発症した病気 | 継続給付の対象は退職前からの傷病のみ |
国保加入の自営業者は「働けない=収入ゼロ」になりやすいのに、傷病手当金がないという仕組み上の弱点があります。就業不能保険などの民間保険でカバーするか、医師国保・税理士国保など独自給付のある国保組合に加入できないか調べてみてください。
会社員でも、給与が出ているのに申請すると不支給になります。会社の慶弔規定で「私傷病でも給与の30%支給」とある場合は、その30%を差し引いた残りの分が傷病手当金として支給される仕組みです。総務に給与計算の根拠を確認してから申請書の「報酬支給状況」欄を埋めましょう。
まとめ|休む決断より、申請する決断を早く
傷病手当金は、健康保険に入っていれば誰でも使える「給与の約2/3を最長1年6ヶ月」という強力な所得補償です。それでも知らずに利用しない人が多いのは、申請書が3者で完結する仕組みでハードルが高く見えるためです。
休業が決まったら、その週のうちに次の3つを進めてください。①協会けんぽサイトから申請書をダウンロード、②次の通院日に医師欄の記入を依頼、③会社の総務に休業期間の証明を依頼。この順番なら最短1ヶ月で振込まで進みます。家計を守るには、休む決断よりも申請する決断のほうを早めるのが正解です。